kaunisupuu mekiss

小さなお話や長いお話、詩のようなお話、時々他にも何か。

台所シンクの上に小さな蚊の死体があった。今回は私が叩いたわけでもなく蚊取り線香を炊いていたわけでもないから一体なぜそこで死んでいたのかわからない。 蚊は産卵のための栄養補給のために血を吸う。だいたい2mgでお腹いっぱいになるのだが、一回の吸血…

6月2日

ホームにいるのに雨が降っている。雨音が静かに響く中、今日も例のヒーリングミュージックが聴こえる。心なしかいつもより大きく聞こえる。その音の合間を縫うように雨の音が重なる。 私は、息子に何をしてあげられるだろうと思う。 不意に現れた思考に、 思…

6月1日

工事中の線路の下に見える盛り土の上に、光るものを見た。女の声と男の声とそれから、どこかで聞いたことがあるようなヒーリングミュージックと、電車が滑り込んでくるガタガタという音の中に立ちながら、ぼんやりとした視界に確かに一瞬、光を見たのだ。 私…

5月31日朝

5月の終わり走りつゆの雲の中に 小さな龍を見つけた。よく見ると その脇にもう1匹。小さな体をくねらせて 雲の合間に見え隠れする。 そのしっぽがいってしまうとすぐにもっと大きな龍をみた。あれは親なのだろうか。 つかず離れずに飛ぶ龍をみて、なるほど…

父の話を書きながら2

思うところあり父の話を書いている。 昨日、自分にもわかるように大好きな気持ちを表現してくれる人をはじめて失うというか、取られた気がした経験を妹の誕生で感じた話を書いた。また思い出した、こんなこともあった。 妹がベビーベッドで寝ている。そこに…

その日父は。をかきながら。

父のことを書きながら,自分について気づいたことがある。妹が生まれて初めて「自分を愛してくれる人」に,「かつて」という言葉がつき、同時にその人は「かつて自分を愛してくれた」と自分の中で変化したのだなと。それで妹は仇になり、父は私を捨てた人に…

その日父は。5

ゴミを片して駒子のうちに帰る。 家の玄関と事務所の玄関を掃き、部屋に入ると朝ごはんの済んだ食器が台所においてある。食器を洗って食器乾燥機に入れる。床に飛んだ水を拭き取り掃除機をかける。読み散らかされた雑誌を片す為に、駒子の息子の部屋にいく。…

その日父は。4

姪の駒子は紆余曲折あったが事務所を経営している。うちの長女と同じ歳だが、えらい差だ。うちのは、あれは大きな歳になって急に家出だ。 どこでどう間違えたのか。ってうか、そもそも家出って、若い子がするもんだろう。旦那をうちに置いてって言うのも変だ…

1月まだ夜明け前の。

救急車や消防車がひしめき合っていたんだ消防団の青年が格納庫から出したホースを水が通っていくのを 見たよ 確かに お父さんとお母さんがすすを舞いあげて燃える家を見ていたのをそれなのに気がついたらお父さんがいなくなっていたんだ 一月の終わりガラス…

その日父は。3

トイレから出るとお母さんに午後は用事があるから早く帰ってきてほしいと言われた。だいたい何時ごろ帰るのかと、尋ねてくる。むしろ何時に帰って欲しいのかと尋ねると14時には出かけるからという。今日は予防接種に行くのだと言う。何がそんなに楽しみなの…

その日父は。2

読経が終わるころ、お母さんが起きてくる。よかった、今日は朗らかだ。ここのところお母さんの機嫌が良くなかった。ねえちゃん家に行くのを年を理由にそろそろやめたら⁈という。だが辞めたら孫にお小遣いも渡せなくなるし何より、1日をどう過ごしたら良いか…

その日父は1

その日、父は朝からいつものように従姉妹のうちに家事手伝いに行った。齢83とは思えないほど軽快な動きで、皿を洗い、掃除機をかけ、洗濯物を干す。仕分けしたゴミをゴミ捨て場まで運ぶ。風呂掃除にトイレ掃除、仏間掃除、玄関掃除。従姉妹の母が父の姉であ…

犬のぬいぐるみ9

窓から通りをゆく人につぶらな黒い瞳を向けて寝そべる犬は、いつ見てもかわいらしかった。学校の帰り道、商店街であるわけでもないのに、ぽつんと一軒、化粧品屋さんが現れる通学路を歩いていた。化粧品だけでなく、夏に近づくと、ミッキーマウスが描かれた…

いぬのぬいぐるみ8

「お話はわかりました。けれども、うちには小さな子はいません。ご近所にもあなたの言っているような歳の子はいないのではないかしら。」そっけなくいい放たれ不安になる。けれど、たしかにはいっていった、いないなんてそんなわけはない。手のひらにはまだ…

犬のぬいぐるみ7

わたしはあの子がこのうちに入ったのを見たはず。見たような気がする。このうちだったような。ほんとにそうかしら?入ったのであれば、中に誰か居て居留守を使っているの?なんの理由で?門の前には相変わらず軽自動車が停まっている。もう一度玄関に立ち呼…

犬のぬいぐるみ6

送り届けたこと、犬のぬいぐるみを探して泣いていたことを話さないでいたら、まさに誘拐犯になってしまいそうだ。わたしは呼び鈴を捜す。 木に墨で書かれた氏名は風雨に晒されてだいぶやけている。微かに判読できるていどだった。その標識の下に御用の方は鳴…

犬のぬいぐるみ5

「あたちのいぬ、どこにいっちゃったのかな。とっても大事なの。ずっといっしょだったから。」 うちが近くなり安心したのか、今まで黙っていたのにすらすら話すようになった。私はもう少しで、ひとさらいの様な私から解放されると考え始めていた。前方にぼん…

犬のぬいぐるみ4

元きた道を2人して歩いていく。手を繋ぐ影はさながら歩行者専用道路を示す標識のようだ。ただあの標識は大きい人は帽子をかぶったひょろ長い男性のように見えるイラストだが。歩行者専用道路の標識イラストの都市伝説を思い出す。あれは、人さらいの男とさら…

犬のぬいぐるみ3

ところがどこにも落ちていない。どうしても見つからない。けれど時間だけは過ぎていく。全く知らない子とふたり。沈んだ太陽の残光の中でそろそろうちへ送ったほうがよいと思った。 「もうおひさまもお家へ帰ってしまったから、私たちもお家へ帰ろうか」 す…

犬のぬいぐるみ2

小さな冷たい手を握りながら、街路樹の根元やこの子の歩いてきた道を眺める。犬のぬいぐるみなんて、そうそう落ちているものではない。ということは、落ちていたら目立つはずだ。簡単な探し物だ。この子の来た道を辿ればどこかに落ちているだろう。進行方向…

犬のぬいぐるみ1

小さな女の子を拾った。 掃き集められた山盛りの黄色いいちょうの上にかがんで、なにかさがしているようだった。 どこかでみたことがあるように思えて、無視することができず。私は声をかけてしまった。しかし、その子は私に振り向きもせずに「犬のぬいぐる…

また別の1

5ミリに満たない白い錠剤を2粒。コップ一杯位の水でのどに流し込み、ゆっくりと溶けていくのを待っている。 薬が解け始め私に吸収されるまでのわずかな時間に、私は自分史上最悪なこの物語を書きつづっている。記憶があいまいになる前に、はなしたい。 写真…

つぎ、降ります。12月20日

朝バス停に並びバスを待っている時、ふいにはらはらとイチョウの葉が降ってきた。風に吹かれて落ちると言うよりもむしろ誰かに揺らされて落ちてくる感じだったから、見上げてみるとカラスが一羽枝にいた。おそらく慎重に細い枝の上を移動しているのだが、ち…

第2話-① 起 血縁を捨てる ~磐牙~

生まれて三日ばかり過ぎた細い月が高い空の上で白く輝きを放っている。命を駆るためだけに振り上げられた鎌の切っ先に似た細い月の―鋭い輝きが暗い森をところどころ突き刺すように照らしていた。「磐(ばん)牙(が)、まったくお前ときたら砂のようじゃ。この手…

天使の瞳 小さい話②

彼は人が苦手だ。けれど街の人混みは好きだ。特にこの街の人混みは、彼を気にしない。彼に違和感を覚える人もいなければ目を止める人もない。だから、この街の人混みにいると、寄る辺ないけれど、一人ぼっちではない気がする。人の中にいて、誰にも気にかけ…

仏師の話 小さい物語①

もともとは いくさから逃れるために村を出た。歩いても歩いてもいたるところに、弔うものもないままの野ざらしの屍体があった。俺は、いつも腹をすかしていた。穴だらけのぼろの着物と、擦り切れた草履。行き倒れの死体が、生きている者の身に付けているもの…

第1話  気の乱れ~起章~昔 どこかで

一面に生い茂るススキの原を一兵士が泣きじゃくる両脇に子どもを抱えて分け入っていくところだった。両脇に抱えられた子どもたちは振り落とされまいと必死にしがみついている。強い向かい風が幾筋もの川の流れのようにススキの流れを変え、ススキの葉は鋭利…

Lilium 

LILIUM 「耳を澄まして 聞こえてくるでしょう? 兵隊の靴が響く いのちの期限が迫る音」 たくさんのツバメが 恋を歌う季節に たくさんの戦闘機が エンジンを全開にして 戦いの歌をうたった 1935-1945 いろんな国旗を まとった飛行機が 空中で弾け 散っ…