kaunisupuu mekiss

小さなお話や長いお話、詩のようなお話、時々他にも何か。

2019-01-01から1年間の記事一覧

第2話-① 起 血縁を捨てる ~磐牙~

生まれて三日ばかり過ぎた細い月が高い空の上で白く輝きを放っている。命を駆るためだけに振り上げられた鎌の切っ先に似た細い月の―鋭い輝きが暗い森をところどころ突き刺すように照らしていた。「磐(ばん)牙(が)、まったくお前ときたら砂のようじゃ。この手…

天使の瞳 小さい話②

彼は人が苦手だ。けれど街の人混みは好きだ。特にこの街の人混みは、彼を気にしない。彼に違和感を覚える人もいなければ目を止める人もない。だから、この街の人混みにいると、寄る辺ないけれど、一人ぼっちではない気がする。人の中にいて、誰にも気にかけ…

仏師の話 小さい物語①

もともとは いくさから逃れるために村を出た。歩いても歩いてもいたるところに、弔うものもないままの野ざらしの屍体があった。俺は、いつも腹をすかしていた。穴だらけのぼろの着物と、擦り切れた草履。行き倒れの死体が、生きている者の身に付けているもの…

第1話  気の乱れ~起章~昔 どこかで

一面に生い茂るススキの原を一兵士が泣きじゃくる両脇に子どもを抱えて分け入っていくところだった。両脇に抱えられた子どもたちは振り落とされまいと必死にしがみついている。強い向かい風が幾筋もの川の流れのようにススキの流れを変え、ススキの葉は鋭利…

Lilium 

LILIUM 「耳を澄まして 聞こえてくるでしょう? 兵隊の靴が響く いのちの期限が迫る音」 たくさんのツバメが 恋を歌う季節に たくさんの戦闘機が エンジンを全開にして 戦いの歌をうたった 1935-1945 いろんな国旗を まとった飛行機が 空中で弾け 散っ…