kaunisupuu mekiss

小さなお話や長いお話、詩のようなお話、時々他にも何か。

2023-01-01から1ヶ月間の記事一覧

犬のぬいぐるみ9

窓から通りをゆく人につぶらな黒い瞳を向けて寝そべる犬は、いつ見てもかわいらしかった。学校の帰り道、商店街であるわけでもないのに、ぽつんと一軒、化粧品屋さんが現れる通学路を歩いていた。化粧品だけでなく、夏に近づくと、ミッキーマウスが描かれた…

いぬのぬいぐるみ8

「お話はわかりました。けれども、うちには小さな子はいません。ご近所にもあなたの言っているような歳の子はいないのではないかしら。」そっけなくいい放たれ不安になる。けれど、たしかにはいっていった、いないなんてそんなわけはない。手のひらにはまだ…

犬のぬいぐるみ7

わたしはあの子がこのうちに入ったのを見たはず。見たような気がする。このうちだったような。ほんとにそうかしら?入ったのであれば、中に誰か居て居留守を使っているの?なんの理由で?門の前には相変わらず軽自動車が停まっている。もう一度玄関に立ち呼…

犬のぬいぐるみ6

送り届けたこと、犬のぬいぐるみを探して泣いていたことを話さないでいたら、まさに誘拐犯になってしまいそうだ。わたしは呼び鈴を捜す。 木に墨で書かれた氏名は風雨に晒されてだいぶやけている。微かに判読できるていどだった。その標識の下に御用の方は鳴…

犬のぬいぐるみ5

「あたちのいぬ、どこにいっちゃったのかな。とっても大事なの。ずっといっしょだったから。」 うちが近くなり安心したのか、今まで黙っていたのにすらすら話すようになった。私はもう少しで、ひとさらいの様な私から解放されると考え始めていた。前方にぼん…

犬のぬいぐるみ4

元きた道を2人して歩いていく。手を繋ぐ影はさながら歩行者専用道路を示す標識のようだ。ただあの標識は大きい人は帽子をかぶったひょろ長い男性のように見えるイラストだが。歩行者専用道路の標識イラストの都市伝説を思い出す。あれは、人さらいの男とさら…

犬のぬいぐるみ3

ところがどこにも落ちていない。どうしても見つからない。けれど時間だけは過ぎていく。全く知らない子とふたり。沈んだ太陽の残光の中でそろそろうちへ送ったほうがよいと思った。 「もうおひさまもお家へ帰ってしまったから、私たちもお家へ帰ろうか」 す…

犬のぬいぐるみ2

小さな冷たい手を握りながら、街路樹の根元やこの子の歩いてきた道を眺める。犬のぬいぐるみなんて、そうそう落ちているものではない。ということは、落ちていたら目立つはずだ。簡単な探し物だ。この子の来た道を辿ればどこかに落ちているだろう。進行方向…

犬のぬいぐるみ1

小さな女の子を拾った。 掃き集められた山盛りの黄色いいちょうの上にかがんで、なにかさがしているようだった。 どこかでみたことがあるように思えて、無視することができず。私は声をかけてしまった。しかし、その子は私に振り向きもせずに「犬のぬいぐる…