kaunisupuu mekiss

小さなお話や長いお話、詩のようなお話、時々他にも何か。

犬のぬいぐるみ5

「あたちのいぬ、どこにいっちゃったのかな。とっても大事なの。ずっといっしょだったから。」

うちが近くなり安心したのか、今まで黙っていたのにすらすら話すようになった。私はもう少しで、ひとさらいの様な私から解放されると考え始めていた。前方にぼんやり灯る玄関のオレンジ色の門灯が見える。狭い道を塞ぐように一台の軽自動車が停まっているのが見える。繋いだ手のひらが一瞬ぎゅっと力を入れられたように思え私は、前に車の停まっているうちがこの子の家だと無意識のうちに理解する。女の子を見つめると、女の子も私を見ている。

「あそこ、かな?」

女の子は、おかっぱに切り揃えられた頭をこっくりと頷いてみせた。長かったと私は思う。私の家とは反対方向だ、これから帰ったら夕飯の支度や、干したままの洗濯物を取り込んで、お風呂のお湯を沸かし、それから、それからと考えを巡らす。私の頭の中が、これから待ち受ける家事でいっぱいになった時、繋いでいた手がパッと放された。

手を離した瞬間、女の子はお母さんと呼んでかけていった。ここまで連れてきた経緯を話した方が良いと思い私も女の子の後を追う。思いがけず足が速いのか、わたしの体が重いのか、足がうまく上がらないのか、やっとの思いでぜいぜいしながら停車した車に寄りかかる。

 門灯は相変わらず柔らかなオレンジ色で当たりを照らしていたが、覗いたうちは白い電灯ひとつだけが灯るだけでひっそりしている。

あぁ、女の子を家中で探しているんだなと、わたしは思う。随分遠くまで探しにいったのだろう。

ハッとする、それほど大事になってるんだと。