kaunisupuu mekiss

小さなお話や長いお話、詩のようなお話、時々他にも何か。

犬のぬいぐるみ3

ところがどこにも落ちていない。どうしても見つからない。けれど時間だけは過ぎていく。全く知らない子とふたり。沈んだ太陽の残光の中でそろそろうちへ送ったほうがよいと思った。

「もうおひさまもお家へ帰ってしまったから、私たちもお家へ帰ろうか」

すると女の子は、いや!とこちらがたじろぐほどの大きな声を上げた。ちょっとこれは手に負えないかもしれないと初めて感じた。

「じゃあ、お巡りさんのとこに行こう。犬のぬいぐるみを探してもらおう。」ついでにこの子も預けてしまおう。迷子ですと、伝えておいてこよう。黙っている小さな手をきゅっと握って歩き始めた。

「交番て、お巡りさんのこと?おまわりさんのとこいくと、また、お母さんに叱られるよぅ。」

交番に行くと叱られるという言葉に、交番に連れて行ったら、いぬのぬいぐるみ以外は解決するとわかった。つまり、この子は交番の常連さんで、交番では、この子についてどこの誰それがわかっており家族に連絡できる、ということだろう。

「お母さん、心配してきつくいうのでしょ?」

その子に言うと首を横に振る。季節から見たら少々薄着で別段あざやキズがあるとは考えられないから虐待受けている様子でもない。

「叩かれたりするの?」

先ほどより大きく首を横に振る。なら大丈夫じゃない、と独り言いい交番に行こうと歩き出すと今度はお地蔵さんにでもなったかのように動かない。西の空のあの美しいさまざまな色に変わる夕方の時間からかなりの時が過ぎ、辺りはすでに紺色で、さまざまな看板に灯りが灯っている。

「もう夜になっちゃって、ぬいぐるみを見つけるのも暗いから難しいよ。今日はおうちに帰って明日お家の人と見つけたらどうかな?」

まんまるのほっぺたは、りんごのように真っ赤で寒いのか、鼻水が垂れ始めている。私は自分のマフラーを女の子にかけた。200センチの長さのマフラーは当然のように小さい子には長い。頭からターバンのように、はたまた、私の父母の時代に流行ったマチコ巻きのようにして両耳を覆って首までくるくると巻いた。

「じゃあ、おうちはどちら。送っていくならどうかな。」

私をじっと見つめてからやっと首を縦にふる。

「交番、行かない?」

私は頷く。

「どっちの方かな?」

空いた手をぎゅっと握ると人差し指をまっすぐにして元来た道を指差した。

「あっち」と。