kaunisupuu mekiss

小さなお話や長いお話、詩のようなお話、時々他にも何か。

犬のぬいぐるみ4

元きた道を2人して歩いていく。手を繋ぐ影はさながら歩行者専用道路を示す標識のようだ。ただあの標識は大きい人は帽子をかぶったひょろ長い男性のように見えるイラストだが。歩行者専用道路の標識イラストの都市伝説を思い出す。あれは、人さらいの男とさらわれていく小さな女の子を描いたのだ、というやつ。そんなわけあるかと思いつつ、言われて見るとそう見えたりする。すっかり暮れた道を一言も発せず2人して歩く。連れて行こうと考えた交番の前に来ると女の子はぐいぐい早足になった。よほど交番に行きたくないんだな。交番の入り口に立つ警察官に見向きもせずに歩く女の子と、ひっぱられるように前のめりに歩く私を警察官の視線が行ったり来たりするのを感じる。いやいや、お巡りさん、違いますよ、私、この子をさらってません。拾った?のですよ。おまわりさんに届けようとしたらこの子に拒まれて、結局、送る羽目になって、云々。などと、一生懸命独り言する。いつまでも追いかけてくる視線を背中に二つ目の脇道へ導かれるように曲った。大通りから比べたら街灯はぽつん、ぽつんと点るだけで、暗がりにかすかに落ちる木の枝の影が手を伸ばしているようだ。こんな真っ暗な中をこの子1人で帰らせなくて良かった。おそらく家族も探し始めているのではないか。妙な不安に駆られていることを察するかのような、合いの手を入れるタイミングで小さな声が聞こえた。

「もうすぐ私のお家」

その間にもノロノロと進む。

「おねえちゃん。あそこ。」

どこだろうと思いつつ歩いて行くが、街灯がない道には円い小さな影すら作れない。ポカポカと温かいのはつないだ手のひらだけでマフラーのない首元から外気が腕を伸ばし冷え切った手のひらを背中まで入れてくるようだった。