kaunisupuu mekiss

小さなお話や長いお話、詩のようなお話、時々他にも何か。

犬のぬいぐるみ6

送り届けたこと、犬のぬいぐるみを探して泣いていたことを話さないでいたら、まさに誘拐犯になってしまいそうだ。わたしは呼び鈴を捜す。

木に墨で書かれた氏名は風雨に晒されてだいぶやけている。微かに判読できるていどだった。その標識の下に御用の方は鳴らしてくださいとブザーがあった。躊躇いなくわたしはブザーを押す。静けさを破るように、うちの中で高らかに呼び鈴がなっているのが聞こえる。かなり大きな音だ、しかし、誰も対応しない。なり終わり、またしばらくまつ。音沙汰なしである。普通ならたとえあの子の世話に追われていたとしても、お客さんに対応するのでは?しかも私はお宅の娘さんを連れて来たのに、無視するの?少しむかいばらをたてる。もう一度ブザーを鳴らす。一回目と同じ対応が繰り返される。一度敷地を出て、門を確認する。今では珍しく引き戸式の玄関のガラスになってる部分からのぞいてみる。確かに灯りは灯っているし、あの子が入っていったのはこの家だ。

でも。まてよ、私はあの子がこのうちにはいったのをみたのかしら。