Lilium
LILIUM
「耳を澄まして
聞こえてくるでしょう?
兵隊の靴が響く
いのちの期限が迫る音」
たくさんのツバメが
恋を歌う季節に
たくさんの戦闘機が
エンジンを全開にして
戦いの歌をうたった
1935-1945
いろんな国旗を
まとった飛行機が
空中で弾け 散っていった
ホウセンカの種に
ふれたように
カエデの種が
落下するように
ユリの形のスピーカーは
敵機来襲を
警告し続けていた
被弾し砕け
粉々になる時まで
ゲットーを出て広場へ
胸にユリの形を縫いとめて
(誰の目にも止まらないように)
トランクひとつで
貨物列車に乗った
バーベンブルグ
終点の地でつく吐息は
リヒテンブルグ ゾネンブルグ
気づかれないほど
アウシュビッツ=ビルケナウ
マイダネク
線路に残されたのは
片方だけの小さな革靴
腕のもげたぬいぐるみ
それから
解き放たれた星の種
誰かのズボンのすそに
犬の毛の間に
こどものくつしたに
(気づかれないように)
海を渡る
誰の手も届かない場所へ
生き延びるために
あの日
胸に縫いとめられていた
ユリの形 星のワッペン
見知らぬ土地の片隅で
うつむいている
外来種と呼ばれながら
(誰の目にも止まらないように)
時々空を見上げ
だれにもつみとられない場所を探して
去っていく
ねえ
耳を澄ましてごらん
聴こえてくるでしょ?
ほら あれは
恋するツバメの声
生きる歌
⭐️
1933年 3人に1人が ナチスを支持
この年から ユダヤ人に対する迫害
1935年 どんなに愛し合っていても
ユダヤ人とドイツ人は結婚できなくなった