kaunisupuu mekiss

小さなお話や長いお話、詩のようなお話、時々他にも何か。

その日父は。5

ゴミを片して駒子のうちに帰る。

家の玄関と事務所の玄関を掃き、部屋に入ると朝ごはんの済んだ食器が台所においてある。食器を洗って食器乾燥機に入れる。床に飛んだ水を拭き取り掃除機をかける。読み散らかされた雑誌を片す為に、駒子の息子の部屋にいく。脱ぎ散らかされた服を畳んで、汚れたものは洗濯機へ持っていく。ついでにこの部屋も掃除機をかける。2階の部屋の窓を開け美しく整える。夢中になって掃除をしている間は何も気にならない。掃除され整った部屋に満足する頃には10時をとおに過ぎている。おじちゃん、一息ついたら?と声かけられる。向かいの長屋の修繕を思い出し、勧められたお茶を適当にすすって立ちあがる。

長屋の鍵を借りて修繕する引き戸を確認する。古い家だ。あちこちがたがきてる。この家は東京から恋人と駆け落ちしてきて最初に住んだ家だ。あの頃は、両側に数軒ずつ立っていて朝にはそれぞれのうちから奥さんたちが出てきて洗濯物を一斉に干していた。雨が降ればぬかるんで、晴れている日には至る所に雑草が生えていて、伸び放題の葉っぱがキラキラしていたのを思い出す。おとうしゃんと、まだ小さい娘が言うのを思い出す。

「ぽぽどうじょ」

「たんぽぽ、ありがとう」

記憶の中の長女はいつも天使のようだ。ただし、記憶の中だけだ。受け取ったたんぽぽを俺はどうしただろうか、思い出せない。開ける時も閉める時もガタガタ言って動きがわるい。戸を外して上下のクルマを確認する。下のクルマが傷んでいる。駒子に行ってホームセンターで部品を買ってこよう。とりあえず戸を戻し鍵をかける。駒子に話して軽トラにのる。みんなは俺の運転がうんぬんというけれど、まだまだ運転はできる。こんなに丁寧な運転を、おっと、赤信号になっちまった。急ブレーキは危ないからそのまま交差点を渡り切る。ホームセンターに着き持ってきたいかれた部品を店員に見せ場所を尋ねる。部品はそんなに高額ではないがレシートを無くさないように財布にしまう。この財布は、次女が誕生日にくれたものだ。